「Guidelines for Course Planning」から考える スプリントコースの極意

 

  スプリントコース作成において大切なことは何だと思いますか?

 

0.ごあいさつ

 皆さんこんにちは。Advent Calendar2021の15日目の記事執筆を担当します、茂原瑞基と申します。今年は面白い記事が盛りだくさんですね。僕は文章が長くなることで有名で、今回も案の定そこそこ長くなりましたが、他の方もなかなかの語りたがりで安心しました。

 軽く自己紹介します。慶應義塾大学2016年入学で、KOLCOB2年目です。現在は上尾OLCに所属しております。一部の人には「留年大会」を通じて認知してもらえているかと思います。競技的には本当に大した成績を残せていないのでお恥ずかしい限りですが、大学入学時に出会って6年近く、いまだに楽しく競技を続けております。最近はもっぱらスプリント大好きお兄さん(おじさんって言うな)と化してます。

 

1.概要

 さて、冒頭ではいきなり疑問文を投げかけました。スプリントのコースで、何が大切であるか、と。この記事の目標は、この問いの答えを模索することです。タイトルで「スプリントコースの極意」なんて言ってますが、そこまで高尚なものかは諸説あります。

 意外かもしれませんが、僕って実はスプリントが大好きなんですよね()。やるのも好きだし、コースを組むのも好きです。あまりにも好きすぎて、すでに10回ほど、対外的な練習会や大会でコースプランナーを務めています。しかもそのうち一回は、公認大会のコースでした。これはかなり貴重な体験だったなと思います。上尾OLCには感謝感謝です。

 

 ちなみに、一瞬話はそれますが、上尾OLC大会では大会のコースプランナーを募集しております。やってみたいな、という方はご気軽にお声がけください。お待ちしています!あ、運営補助員も随時募集していますので、運営に興味ある方ややってみたい方はお声がけください。

 

 話は戻って、「コース組み」についての話ですが、一回くらいはやったことある、という方は少なくないのではないでしょうか。もちろん大会とは言わずとも、身内でコース組み練習をしてみたり、予想コースを組んでみたり、と。こんなレッグが面白そう!なんて考えるのもコース組みの第一歩です。最初の最初はこわいですが、やってみたら案外楽しいものですよね。

 かくいう僕も、大学2年生くらいからちょこちょこコースを組んだりし始めました。たまに当時組んだコースに思いをはせますが、とても見せられたものじゃないです、よくもまぁあんなコースを世に出したもんだと恥ずかしくなります。

 ただ、恥ずかしさを感じるくらいには自分のコースプラン二ング力は上がっているのかなと思います。

 

 何が違うのかな、と考えたとき、一番に思うのは、気を遣うことが増えたなということです。昔は気にも留めなかったけど、今はめちゃくちゃ色んなことを気にしながらコースを考えでいるなぁと。複数回コースを組んだことがある人は共感いただけるのではないでしょうか。

 

 じゃぁ具体的に、何に気を付けるようになったんだろう。

 僕が今回考えたいのは、スプリントコースを作る際の前提条件、とでも言いましょうか。こんなコースは良いコースと言えるよね、的な話はよくありますが、コースを提供するなら絶対に満たしておかなければならない条件ってあるんじゃないの?って思った次第です。

 

 前置きが長くなりました。もう読むの飽きたげ!って人は次の段落だけでも読んでからブラウザバックしてください。

 さて、今回の記事を書くにあたって参考にした資料があります。タイトルにもなっていますが、IOFが出している「Guidelines for Course Planning(Sprint, FootO, Jun 20)」という資料です。本記事の内容は基本的にすべてこちらの資料に準拠していますので、併せてご覧いただきたいです。ですがこちらの資料は、IOFの資料になりますので、当然英語で書かれています。なんだよ英語かぁ、わいには無理じゃぜ~という英弱のそこのあなた!落胆するのはまだ早い!

 今回、私、茂原瑞基、なんと、ななんと!

 

この資料を日本語に訳出しました!

 

 はい、わたしがこの記事を書くことにした目的はこれです。「せっかく頑張って作ったから、みんな見てくれ!」っていう。だからほんとは今回の記事も訳したものをただ張るだけにしたいくらいでしたが、それじゃあまりに味気ないので、この資料の内容を少しまとめてみようかなと思った次第です。

 では早速、僕が日本語に訳したもののリンクを以下に貼りますので、ぜひご覧ください。

コースプラン二ングのガイドライン-スプリント競技編-↓

https://www.dropbox.com/s/2c76bqzd9kctdr5/%E3%82%B3%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%81%AE%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%28%E3%82%B9%E3%83%97%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%88%29%20Japanese.ver.pdf?dl=0

 はい、これで今回の記事の目的の9割果たしました。僕は満足です。一応いくつか断っておきます。

・この日本語版の資料は個人的な趣味で作成したものですので、正式なものではありません。

・翻訳に関してはずぶの素人です。なるべく原文に即して自然な日本語となるよう心掛けましたが、適切でない部分もあるかと思います、ご了承ください。

・個人的な範囲で使用する分には、ご自由にお使いください。

・一部の章は訳出しておりません。

なにか問題がありましたらご連絡ください。

 

 ということで、ここからの文章は読んでも読まなくてもどっちでもいいです。興味のある方はもう少し()お付き合いください。

では行きましょう。

 

1.コース作成に欠かせない条件は?

 改めてここからの内容は、この私が訳した(最大限の強調)「コースプラン二ングのガイドライン-スプリント競技編-」(以下ガイドライン)を基に書いていきます。

 では早速、コース作成に欠かせない条件について考えていきます。

 みなさんも一緒に、考えてみてください、答えはなんだと思いますか?

 

 複数ルートチョイスがあること、ナビゲーション負荷が大きいこと、ディシジョンポイントが多いこと etc…

  スプリントのコースを作ったことがある方であれば、このあたりが出てくるでしょうか。ところがガイドラインによれば、これらはいずれもクリティカルな答えではないようです。

それでは答えは何かといいますと、それは

 

「公平性」

 

です。どうでしょうか、当たっていましたか?恐らくですが出なかったのではありませんか?僕自身もガイドラインを訳すまでは考えたこともなかったですが、ガイドラインによれば答えは公平性のようです。

 

 公平性に関する記述は、ガイドラインの中で何度も登場しています。

「公平性は、競技スポーツにおける基本要求である。(中略)コースプランナーは、大会が公平で、全ての競技者がコース上のどの部分においても同じ条件を享受することを保証するように(p.4)」

「公平さと安全性を担保するよう手配されていること(p.12)」

「公平に、公平に、とにかく公平に!-忘れないように(p.15)」

「最速となるルートチョイスを見つけるのが困難な、それでいて不公平でないレッグを組むべきである(p.16)」

 

 …などなど、「公平に」とか「公正に」とか「不公平とならないように」という表現が、形は違えど何度も登場します。それだけIOFは「公平性」を最重視しているということがわかります。これだけ強調されているにも拘らず、日本ではあまり議論されていないような気がします。そこで今回は、この「公平性」について考えていきたいと思います。

 

3.公平性とは何ぞ

  記事のテーマが決まり、公平とは何かについて考えてみました。皆さんもちょっと考えてみてください。公平なコース、公平なレッグ、公平なスプリント、どんなものでしょうか。 

 非常に悩みました。これすごく難しいです。そこでいったん僕は「不公平」とはどんなものだろうと考えてみることにしました。するといくつか考えが浮かんだので、具体例とともに考えていこうと思います。

 

3.1 公平でないレッグ‐その1

 難しいスプリントのコースを何度か走ったことある人は、1度はこんなこと叫んだ記憶ありませんか?

 

「いや、こんなん見えるかい!」「うわっ、ここ通れたんかい!」

 

 僕はまずここに目を付けてみました。つまり、競技者の走行中での判読が極めて難しいような特徴物があるレッグです。重要な特徴物が見えない、というのは公平ではないように思えます。見えた人が得をして、見えなかった人が損をするというのは、運の要素が大きくなってしまいます。

 もちろん全てがあてはまるわけではありませんが、一部には、まさにこれが当てはまる場合があると思います。

 

 その最たる例が、「最小寸法が守られていない」です。知らない人のために軽く説明すると、最小寸法というのは、「この特徴物を地図に描くときには、どんなに実物が小さくてもこの大きさ以上で描きなさい、このサイズで描きなさい」という、競技規則によって定められているルールです(詳しいことはAdvent Calendarの5日目で根本選手が語ってくれてますね)。

 最小寸法は、スプリント競技を行うにあたり、これが守られていないものは判読性が低い、と判断される指標になりえます。

 これは、「最小寸法の守られていない地図は、競技者にとって不公平なものである」と言い換えられるでしょう。

 ガイドラインの中でも「どのレッグも、競技者が競技中に地図から読み取れない情報によって有利になったり不利になったりするようなルートチョイスがあるべきではない(p.6)」とあります。地図から読み取れない、というのは幅のある書き方ですが、最小寸法が守られていない、というのはこれに含まれるでしょう。

 せっかくなので、この表現についてもう少し深堀りしてみます。

 

3.2 公平でないレッグ-その2

 地図から読み取れない、これまた難しいですね。例えば、実際には存在する特徴物が地図に記載されていない、もしくはその逆(そんなことがあり得るかは置いといて)というのは、これにあてはまりそうですが、そんなものは論外なのでここでは触れるまでもないと思います(とはいえどこまで省略するか、とかは議論の余地がありますが、今回は一旦目をつむることにします)。

 ここでは、実際に描いてある、最小寸法も守られている、それでも地図から読み取れない、ということについて考えていくことにします。

 

 ではまずは次のレッグを見てください。

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 さて、僕はこのレッグに不公平ポイントがあると考えています。どこだと思いますか?

 

 答えはここです。

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 よく見ると、コントロール円の下に藪の切れ目があります。つまりここは通れる隙間なわけですが、円に被って見づらくなっています。しかも、ここを通るのが明らかにベストルートですね。にもかかわらず、円が被って見えない。これが、ガイドラインで言うところの「公平でない」状態です。

 これではよくないです。円に特徴物が被っている時は、次のように円にしっかりと切れ目をいれましょう。

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 ガイドラインでも「コントロール円は、競技者がどこからアタックをし、どの方向へ脱出するかを慎重に検討してカットする必要がある。円と重要な特徴物が被っている場合、円をカットする必要がある(p.21)」とあります。

 

 地図から読み取れないというのは他にも例は考えられますが、ここではいったん省略します(ガイドラインの中では例えば、複雑な多層構造の使用は控えた方がいい、という旨の記述があります(p.17)。3次元構造を2次元に落とし込むわけですから、無理があるのは当然ですね。)。

 

 また、コントロール円だけではなく、コントロール番号やレッグ線などが、ルートチョイスに影響を与えるような特徴物に被ってないかは要確認です。被っているものを提供すると、それは公平でないものとなってしまいます。

 ということで、以上のようなコースに関わる記号が、特徴物を隠し視認性を悪くすることがないように気を付けましょう。

 

 さて、上の3つの中でさらに気を付けなければならない記号があります。どれでしょう。


 次の節は、そんな記号に関するお話です。

 

3.3 公平でないレッグ-その3

 これをご覧ください。何が問題だと思いますか。

 

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 これは比較的わかりやすいでしょうか。そうですね、コントロール番号の位置があまりにもひどすぎますね、極端な例ではあると思いますが、コース番号の位置には気を遣いましょう。走りながら競技者が「ん?これどっちいけばいいいんだ?」と一瞬でも思わせてしまうような置き方は避けなければなりません。

 

 上の例で言えば、番号の位置を変えるだけでも十分ですし、あまりにもわかりづらいものはポスト位置を変えるなどする必要があると思います。

 ガイドラインでは、「コントロール番号が不適切な場所に置かれてしまうと、ルートチョイスや、特にコントロールの順番について混乱が起こってしまうので、地図上での配置場所について細心の注意を払うこと(p.21)」とあります。

 

 とかく大事なのは、プランナーの意図ではない混乱を防ぐこと、ひいては失格の可能性を極力排除することです。

 

3.4 いったんまとめてみる

 ここまでで3例、「公平でないレッグ」について考えてみましたが、どれも当たり前のことばかりでしたね。たぶんですけど、それでいいのかなと思いました。公平性の話があまり話題にならないというのも、当然気を付けているから議論するまでもないからなのかもしれないです。

 公平性を保つためには、当たり前のことを当たり前にやる、これに尽きるのかな、と。もう少し具体的に言うなら、「スプリントの競技中に、競技者を意図せずに困らせてしまうようなことが起こらないようにする」ということかなと思います。参加者によって判断が分かれてしまうような表現を避けることが大事なのかな、と。

 また「スプリントの競技中に」、というのもまたポイントです。スプリントの競技については、ガイドラインの中でこう定義されています、「スプリントオリエンテーリングとは、市街地もしくは走りやすい公園環境での高速度のルートナビゲーションである(p.12)」。さらに「スプリントは、複雑な環境下で読図し地図を解釈する能力、高速度で走行しながらルートチョイスを検討し実行する能力を測るものである(p.10)」とあります。ここにあるように、スプリントは高速度下で行うことを前提とされているため、高速度下での判読に耐えるものか、検討する必要があるかと思います。

 

 とはいえ、こんなものはほんの一例に過ぎません。ほかにも公平性の確保のために出来ることはたくさんあると思います。僕にはその全部の紹介は出来ません。ですが、僕の代わりに、全部紹介してくれているものがあります。

 

「競技規則読め!全部読め!」

 

 これに尽きますね。全部書いてありますから。

 特にチェックしたいのは、「コース設定の原則」。あそこには、競技としてのオリエンテーリングの、その公平性を確保する上での規則が書いてあります。規則に則ったコースを提供することは、プランナーの当然の責務だと考えます。仲間内でエンジョイ目的でコースを組むならともかく、そこそこまともな大会でコースを提供するのなら、競技規則くらいは把握していたいところです。

 とか言っている僕も全部は覚えてないので、そんなに強くは言えないですけど、大事なところは抑えているつもりです。競技規則の存在を意識しだしたあたりから、自分のコースづくりにも一定の体系ができてきた印象です。大事ですよぉ、競技規則。

 

 ということで僕からの結論は、競技規則を読んで、僕が訳した(←ここ重要)ガイドラインを読んでください、ということです。特にガイドラインの§5は必見です。コース設定の原則に関しては、同じ内容がガイドラインで訳されているので、ガイドラインを見れば十分ですよ!

 

4.公平性のその先へ

 3章での話はコースプランをする上での前提の前提のようなものです。話としてはいささか退屈だったかもしれません。これだけで良いコースが作れるわけもありません。

 良いコースたるには、やはりほかにも意識すべきことがあります。

 以下は、少々雑多な話題ではありますが、よりよいコースプランとなるような話を、時間の許す限りいくつか抜粋して話していこうかと思います。

 

4.1 ディシジョンポイント

 さてみなさん、コースを作りましょうか。それにはまず、いくつかレッグを考えよう(ちなみにガイドラインではコースプランは「自慢の勝負レッグを1つ作ることから始める」と良いとされています。僕もよくそうします)。

 このとき、意識的にか無意識的にか、コースプランナー全員が考えていることは、競技者にどんな課題を提供するか、だと思います。このレッグではこんな技術を、このレッグではまた別の課題を、なんて。こうすれば難しくなるだろうって考えることは、課題を設定することとほぼ同義だと思います。

 では、スプリントにおいて課すべきとされる課題は何でしょうか。フォレストのそれとは異なることは容易に想像できますね。

 こちらに関してガイドラインで言及されているので紹介します。

「スプリントは、(中略)コントロールを発見する、ということを課題とすべきでなく、コントロールまでのベストルートを選択し実行する能力を課題とすべきである。(p.12)」

 とあります。すなわち、「コントロール位置はわかりやすい場所にすべきで、課題はルート判断とその実行にこそある」ということですね。

 

 実行難易度を考えるにあたっての1つの指標として、「ディシジョンポイント」というものをご存知ですか。これは、「走者がどの方向へ行くのか(まっすぐか、右か、左か)を決定しなければならないポイントである」、と定義されております。簡易的に「分岐点」と捉えてもいいのかもしれないですね。

 ディシジョンポイントが多いほど、選手は実行に高い集中力を必要とするため、要求課題を満たします。

 ルートが不規則な形をしているほど、ディシジョンポイントは多くなり、ベストルートを見つけるのが困難となることでしょう。

 

 ちなみに僕は、ディシジョンポイントという言葉は最近まで知りませんでした。聞いたことはあったような気はしますが、なんのことやら状態だったと思います。

 でも今になって思うのは、自分がこれまでにルートチョイスの出来栄えを考える時は、ディシジョンポイントがどれくらいあるか、という基準を無意識に使っていたなということです。これからは意識的に使っていきたい指標だと考えています。

 ディシジョンポイントの考え方を基にして、ルートチョイスの検討を行いましょう。

 

4.2 ルートチョイス

 スプリントの醍醐味は何かと聞かれれば、まぁ間違いなくルートチョイスでしょうね。プランナー玄人は、いかに面白いルートチョイスを生み出せるかに神経をすり減らすことでしょう。

 ガイドラインにおいてもやはり、ルートチョイスの重要性についてかなり触れられています。例えば、良いレッグとは「複数のルートチョイスのあるものや実行が難しいもの(p.16)」であるとされています。また、スプリントのコースでは「ルートチョイスを擁さないあるいは全ての選手が同じルートを通るようなレッグの数は最小限に抑えなければならない(p.12)」ともあります。もっと言えば、「全てのレッグでルートチョイスを課すことを目指すこと(p.26)」とすらあります。

 ルートチョイスの無いもの、スプリントにあらずといった具合でしょうね。それが念頭にあるからこそ、プランナーは苦心してどうにかルートチョイスを生み出そうとしているわけです、時には人口柵に頼りながら。

 

 近年では、人口柵を用いたコースが多くなりつつありますね。直近ではインカレスプリントなんかもそうでしたね。

 僕はここで、この風潮に警鐘を鳴らしたい。いやもちろん、人口柵を使うことそれ自体を否定したいのではありません。人口柵がコースを面白くさせることは間違いないありません。その使い方に気を付けてほしいということです。

 まずは以下のガイドラインの抜粋をご覧ください。

「パズルみたいにも、トラック走みたいにもなってはいけない(p.15)」「プランナーは、決して選択されないであろうルートチョイスを考えだす可能性があり、それによって複雑すぎる課題を生むことに時間を浪費することがある。一方で、競技者は“セカンドベスト”なルートを取ることでルートプランの時間短縮を図るだろう。(p.9)」

 

 人口柵というのはとかく便利な代物です。これを使えばいかなるテレインであろうとも、自分の思うままに、理想のテレインに改造することが叶うのですから。あまりに度を越えた複雑さを有するテレインに変貌させることもできてしまうのです。

 しかし、残念ながらもうそのコースはもはやスプリントの領域を越えてしまっていることでしょう。ただのパズル、迷路。これはよろしくないわけです。

 ガイドラインの別の箇所にこんな記述があります。「走者が歩くことを強制されるべきではない。速い速度で走りながら課題を解決できるようにするべきである(p.18)」。先述の通り、スプリントは高速度下のナビゲーションを前提としていますから、選手が歩くないしは止まらなくてはならない状況は避けなければなりません。

 人口柵の扱いには十分に気を付けましょう。

 人口柵を用いなくとも、面白いルートチョイスを創れるテレインなんていくらでもありますから、まずはテレインのありのままを目いっぱい利用するところから始めたいなと、僕は思います。

 

 ルートチョイスによる有意差は、実は簡単に作れます。選手が4分/kmで走る想定をした場合、単純計算で約20mの差があれば、5秒差が付きます。スプリントにおける5秒が重大な差となることは言うまでもないですね。ガイドラインにおいても20m程度の差で十分とあります。

 もちろんことはそこまで単純ではなくて、当然ながら、登りやディシジョンポイント、ナビゲーション難易度など、考慮すべき項目はたくさんあるため、難しくなるわけですね。

 

 いいルートチョイスを生み出すのは難しいですが、ここには最大限時間を費やす価値がありますよね。渾身のレッグが組めた時の感動はひとしおですし、そのレッグを参加者に評価してもらえるのは何よりの喜びです。

 

 ガイドラインを参考にしてもらいつつ、何よりも実践あるのみ!

Let’s Course Planning!

 

4.3 コースの点数化

 いいレッグが出来て、いよいよコース完成!…の前にやってほしいことがあります。「コースの点数付け」です。

 いざコースを組んでみた、でもこれっていいコースなのかな、と不安になりますよね。実際に参加者に評価をもらうまでわからないのでしょうか。もどかしいですね。そこで、ガイドライン内で、コースを定量的に評価する方法が紹介されています。表になっているので、ご覧ください

 

ポイント

市街地

市街地以外

ルートチョイスがない、またはほとんどない

最小限のナビゲーションで十分で、単調なレッグ

容易に絞れる2つの似たようなルートがある

技術的な難易度が低い簡単なルートチョイスがある

実行が容易でない、また思考も要求されるルートが複数、もしくはそのようなロングレッグが1つある

即座に判断できないルートチョイス、または技術的な課題が複数ある

複雑なルートチョイス/詳細な読図が求められ、ディシジョンポイントが多数ある

複雑なルートチョイス/詳細な読図が求められる

 

 と、このようになっています。実際にどんなレッグが何点と評価されるかは、ガイドラインの最後の方(p.26-28)で紹介されているのでそちらをご覧ください。

 自分の組んだ各レッグに対して0-3点の点数を付けます。20点以上であれば、合格です。15点以下は再考の余地あり、すなわちつまらないコースであると評価されます。

 20点というのがどれくらいかというのを順に説明します。ガイドラインによると、そのコースの1レッグ当たりの平均レッグ長は120-180mが望ましいとされています。また、世界選手権などの舞台においては実走距離4.0㎞のコースが望ましいとされます(ウイニングタイム14分、選手の平均走タイムを3.5分/㎞として計算されています)。ここから、1レッグ当たりのポスト数はおよそ27個と算出されます。

 ということは、全レッグが1点であればクリアですね。でもこれ、言い換えると、全レッグにルートチョイスが存在するということです。理想ではありますが、現実は厳しいですよね。繋ぎのようなレッグはどうしても生まれます。それ自体は別に無問題ですが、テレインによってはルートチョイスが全然作れないことありますよね。僕も何度も頭を抱えたことがあります(そんな時こそ人口柵の出番ですね)。

 

 この点数化の肝は0点のレッグが存在することです。少し前は0-3点ではなく、1-4点だったようです。今の基準では、どんなにレッグを創造してもコースの出来栄えに影響を及ぼさないレッグがあるということです。たしかに、今の基準の方が実際の感覚に近い点の振り方な気がします。

 

 どんなにレッグをひねり出そうとも、0点ばかりでは意味がないわけです。コースを組めたら、1度定量的にそのコースの良し悪しを測ってみましょう!

 

5.総括

 正直、公平性がなんたるか、僕の考えが合っているのかはよくわかっていません。だから、ぜひこの記事を読んでくれた皆さんと一緒に議論したいです。公平性だけじゃなくて、良いスプリントのコースがどんなものか、色んなプランナーの考えが知りたいです。レース後のコース談義はとっても好きなので、会場でぜひ語らいましょう!

 

 まだまだ語りたいことはありますが、すでにだいぶ書いたのであとはガイドラインを見てください。少しでもコースプランに関わったことがある方、やってみたいなと考えている方全員に読んでもらいたいものになっております。改めて、§5は必見です。

 

 最後に付け加えておくなら、競技規則もガイドラインも言ってしまえば必要条件に過ぎません。読んで理解しただけで面白いコースが組めるものではありません。これらの資料に加えて、自分なりの理念やパッションをつぎ込むことで初めてそれは最高に花開くものと思います。

 コース=テレイン×プランナー。あくまでコースはこの2つの変数から成ります。コースの値を決めるのはテレインとプランナーです。そしてガイドラインは、この2つの変数の値を大きくしてくれるサポート役になってくれることでしょう。ガイドラインが、あなたの良いコースの創出の手助けとなってくれることでしょう。

 

 ではこの辺で終わりにします。ここまで読んでくださりありがとうございました。良きコース組みライフ(?)をお送り下さい。最後に、ガイドラインの中で僕が最も好きだったフレーズを紹介して締めくくりとしたいと思います。

 プランニングの初期段階の最高にクレイジーなアイデアでさえ、最終的には“ダイヤモンド”になる可能性がある。

 

ありがとうございました。